
初めて入る店。
人生の中でも、頻度は高めに目の当たりにするハードルの一つだろう。
喫茶店巡りが趣味の私にとって、そのハードルの向き合い方は重要な能力なのだ。
まぁ、ハズレというハズレを引くことは少ないが、大当たりに出会うことも珍しい。
何を持ってして大当たりか、ハズレなのかはその時の気分にもよるかもしれない。
ただ一点、また来たいと思わせる店は、当たりなのだろう。
そう考えると、今回の喫茶店は間違えなく大大当たりだろう。
まず、土曜日なのにも関わらず、人も少なく静かである。また、お店のコンセプトがレコードというのもまた趣深い。店主が大のレコード好きなのか、大きなスピーカーから流れる音楽は、棚にぎっしり詰められたレコードの数々から選曲されたもの。そして、一番目立つのが設置されたステージ。ドラムとグランドピアノがセッティングされており、時たまイベントなどで使うのであろう。照明も完備されていた。
なんとも落ち着きのある店内。風情のある店内。これぞ求めていたお店の一つである。
その余韻に浸りながら、文字の羅列に勤しんでいると、地元の人たちであろう老人三人が入店してきた。会話の内容から始めて入店するようで、私と同じく店内の雰囲気に趣深さを示していた。
老人たちは、年代の事もあってかレコードに興味を示し、棚を観て回っていると、店主が出てきた。
レコードを熱く語り、懐かしい音楽の話をし始め盛り上がる。会話の内容や、お互いを褒め合う言葉遣い。その美しさに、私はより魅了された。
そう、このお店は一言。
上品だったのだ。
私が惚れた理由はそこにあり、他の店には無い独特な雰囲気こそ、魅力の一つだった。
気兼ねなく客と店主が話す姿は、いつしか見なくなったような空気がそのお店にはあり、そしてまた来たいと思わせる。
「ごちそうさまでした。必ずまた来ます」
そう一言お釣りを受け取る際に告げ、品のいい店で、客として精一杯の言葉を返しお店を後にした。